未払い残業代の請求や過重労働の問題について、ご相談は多いです。
特に「勝手に残っていても支払いの対象になるのか?」という質問を多数いただいております。この場合、実際に業務を行っていたら、残業代の支払いは必須となります。
しかし、単に「ぼーっと残っていた」場合は残業ではないので、残業等の支払い義務はありません。賃金の支払い基準は「働いているか?働いていないか?」で決まりますが、休憩時間や仮眠の時間が労働時間に該当し、賃金支払いをしなければならない場合があるのです。
これに関する裁判があります。
<イオンディライトセキュリティ事件 千葉地裁 平成29年5月17日>
〇 警備員が仮眠時間と休憩時間は労働時間に当たると主張。
→ 仮眠時間4時間、休憩時間30分
〇 警備員は内容証明で会社に未払い賃金を支払うように求めた。
〇 会社は警備員を昼勤のみにした。
〇 未払い賃金の支払いを主張する警備員は支払いを求めて裁判を起こした。
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
〇 警備は1人体制であり、警報の作動時は即対応が求められていた。
〇 仮眠中も緊急対応に備えるため制服は着用したままであった。
〇 この状況は「労働から解放」されている状況ではないので仮眠時間、休憩時間の賃金の支払いが命じられた。
この裁判を詳しくみていきましょう。
休憩時間や仮眠時間のような実際に業務や作業をしていない時間が労働基準法上の労働時間に該当するかがポイントと考えられます。この場合、会社の「指揮命令下に置かれている」かどうかで労働時間になるかならないかが決まります。
仮眠や休憩は業務等の「労働から離れることを保障されていて」初めて、「会社の指揮命令下に置かれていない」となるのです。
この裁判では「休憩や仮眠時間でも警報が鳴った場合、即対応する」となっているので警備員は「指揮命令下」に置かれていると判断されたのです。
実際に、寝間着に着替えて仮眠をとることは許されず、制服のまま仮眠をとるとされていたのです。そして、警備の期間が8ヶ月で、その間に少なくとも4回の仮眠中の出動があったのです。この状況を考えれば労働基準法の労働時間に該当することになります。
また、休憩時間であっても警報機が鳴れば、緊急対応が必要ですぐに行動することとなっていました。さらに、震度3以上の地震があった場合、仮眠者を起こしてから対応する運用が取られていたのです。このように仮眠や休憩について、業務を行っていない時間でも何らかの義務が課せられていたら、「会社の指揮命令下に置かれている」となり、労働時間となるのです。
この区分けをきっちりと行わないと事例の裁判のようにトラブルとなってしまうのです。
具体的な対応として、
〇 警備の時間と休憩時間、仮眠時間を明確に分ける
〇 仮眠時には緊急対応は行わない
〇 警備員を交代制とし、複数の人員を配置する
→ 勤務時間の短縮等も考える
等が考えられます。
また、一般企業でも休憩時間について、完全に業務から離れることとしないと同様のトラブルに発展します。だから、休憩時間に電話番を置く場合は、業務として当番制にし、休憩時間をずらしてとる仕組みを作らないといけないのです。
今回問題となっている仮眠時間、休憩時間あるいは朝礼時間、着替えの時間といった業務本体を行っていない時間の考え方の裁判があります。
これらの判例でも「使用者の指揮命令下に置かれている時は労働時間」という考え方が基準となるのです。
なので、何らかの「やることを課せられた状態」であれば労働時間となってしまいます。
以上のことを考えて業務と業務外を考えないといけないでしょう。
一番やってはいけないのは「このぐらいは休憩時間でやっておいてくれ」として、何か業務を行わせることです。
会社側は「このぐらい」と思っても、社員は「何で休み時間にやらなければならないのか」と考えてしまう場合もあるでしょう。
このようにしてトラブルの「火種」が生まれてしまうのです。
火種が生まれてしまうと、いつ爆発してしまうか分からないので潜在的にリスクを抱えた状態となってしまうのです。
よって、この火種が生まれないように、ルールを徹底し、会社と社員できっちりと運用することが大切なのです。